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ひとりの人物を掘り起こすことで見えてくる時代のダイナミズム

 あらゆる人間の内部にはそれぞれ他の文化や伝統が過不足なく集約されているはずである。従って、ひとりの人間をつきつめて理解し、感受しようとする試みは、我々にその時代のダイナミズムをつきつけてくることになる。そしてまた、その人間の心のダイナミズムをもつきつけてくるはずである。

 屋久島にシドッティ記念館が設立される運びとなっているようだ。きっかけは古居智子氏の『密行』という稀有な作品であったろう。数奇な運命と自らの意志に翻弄されたイタリア人宣教師シドッティが屋久島を始めとしてたどった足跡と苦難、そして思わぬ場面での日本人への啓発の足がかりは、私にとっても意外であり、驚きでもあった。

 氏の直感はここを巧みにとらえたようだ。氏には、ひとりの人物を掘り起こすことで見えてくるであろう人間の真実への作家的情熱がある。これゆえに、硬質な文体で実証的に描かれる宣教師は、客観視というスポットライトを氏から嫌というほど浴びせられて、江戸時代から再浮上した観がある。

 かの宣教師がたどりついた最初の日本の地、そしてその時代と人間像を見事にあばいて浮上させた氏の拠点、屋久島。これほど記念館にふさわしい場所は、他にないだろう、

 宣教師シドッティの鎮魂、そして氏の情熱を讃える記念館として、多くの人に注目していただきたいと願う。

ひとりの人物を掘り起こすことで見えてくる時代のダイナミズム

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